第2項 業種・世代を越えたコミュニケーション醸成装置

世代・業種を超えたコミュニケーション

シェア住居ではラウンジやキッチンを共同利用するという性質上、必然的に入居者同士のコミュニケーションを誘発してゆく特性があります。

もちろん長期間良好なコミュニケーション環境を維持してゆくためには運営事業者の一定の意識と取り組みが必要となりますが、それでもその他の手法と取り組みの効率性を比較すれば、実に簡単に良質なコミュニティを醸成する事ができるのがシェア住居の特徴です。

シェア住居の入居者には、何らかの理由で「シェア住居に住もう」と考えたという点を除けば、一般的に入居前の共通項は少ないのが特徴です。そのためシェア住居には年齢、業種、年収、出身地等において実に様々な入居者が集まります。

そして、それぞれがいち入居者として他の入居者との交流を持つ事になります。

任意性の高いコミュニティとの距離感

シェア住居にはまた、各入居者とコミュニティとの距離感の任意性が高いという独特の特徴があります。

住居の枠組み上、他の入居者とのコミュニケーションを自然に醸成し易い特性を備えてはいるものの、多くのシェア住居では必ずしもそれを強制しない運用がなされています。人により、または時期により、自分にとって心地よい他の入居者との距離感をある程度選択する事ができるのも重要な特徴です。

これは同時に、よくコミュニティ管理のされた物件においては他の入居者がその時その時にそれぞれ独自の距離感覚や生活の都合を持っている事を、入居者同士が配慮するようになってゆく、という事でもあります。

このようなコミュニティとの距離感の任意性の高さはシェア住居を検討する入居者の心理的敷居を大きく下げ、シェア住居が人気を集める要因となっているのではないでしょうか。

様々な性格を持つ運営事業者が、やはり様々な距離感、性格を持った物件を数多く提供している事もまた、自分に合った物件を選択可能であるという意味で市場全体でその任意性を高めていると言えます。

ロールモデルのショーケース

シェア住居生活では、入居者は自分とは異なる様々な世代・業種・経歴を持った他の入居者との交流を経験する事になります。

入居者同士は互いに自らの経験した事の無い多くの業種・世代における日常生活や、そこに生きる人々の価値観、世界観に触れ合い、結果として相互に様々な刺激を与え合います。もちろん時には大きく異なる価値観や考え方と接し、驚き、学ぶ事にもなります。

このような経験は、多くの入居者にとって自らの人生観や価値観、そしてキャリア観の形成に影響を与え、様々な人生の可能性を広く考慮するきっかけとなっているのではないでしょうか。

様々な活動を生む孵化装置

シェア住居では多くの人々が連鎖的に出会い、交流を持ちます。これは、必然的に様々なものが生まれる土壌がそこに存在する事を意味していると言えます。

シェア住居という存在を語る際、入居者の中から数多くの著名な漫画家を輩出したトキワ荘が引き合いに出される場合がありますが、今後、シェア住居を舞台として出会った様々な才覚同士の交流により思いも寄らぬ多様な成果が生まれて来る可能性は充分にあります。

シェア住居の縁で転職した人、結婚した人等は既に当然のように存在するようですが、今後この種のエピソードが発展し「起業した」「バンドを組んだ」「一緒に店舗を開いた」といった様々な文化的な成果に繋がる事は、充分に期待できる事ではないでしょうか。