@ 今日は、リノベーション事業に軸足を置いてらっしゃるリビタさんが、どういう視点でシェア住居事業について参入されたのかという事を中心にお伺いしたいと思います。まずは、リビタさんという会社についてご紹介をお願いします。
鈴木氏: 当社は東京電力51%、都市デザインシステム49%の出資で2005年5月に設立されました。中古マンション、中古社宅、寮などの優良な既存建物を壊さずに有効に活用したいという事で、リノベーションという手法で再生させるというところから事業が始まっています。
東京電力が主体となり、エコ、若さ等の観点から事業を伸ばして行きたいという事で、パートナーとしてデベロッパーである都市デザインシステム社と手を組んでいます。東京電力ではご存知の通りオール電化を推進しており、当時160万戸あると言われた中古市場で、不動産再生を通じオール電化の普及を進めるという事も事業の狙いです。
@ 現在の事業内容を具体的に教えて下さい。
鈴木氏: 大きな柱は社宅や寮を買取り、オール電化住宅として再生・分譲する事です。新築を対象としていた不動産ファンドにも組込める資産として認められたため、ファンドに対する1棟売りも行っています。また、ユニット事業で個別の1戸1戸のマンションを買い取らせていただき、オール電化ではないんですが、ハーフ電化と言う形でのリノベーションも行っております。
@ これまでに何棟くらいリノベーションを手掛けられたのでしょうか?
鈴木氏: 2007年11月時点で1棟まるごとですと7棟です。1棟分譲は230戸。コンサルティングは分譲で30戸、寮が121戸、コーディネートだけを担当した物件もありますが全てリノベーションです。
@ 基本的な事ですが、そもそもリビタさんの考えるリノベーションとは、どういったモノなのでしょうか?
石川氏: リノベーションという言葉には、実は正式な定義はありません。不動産業界だけでなく美術の世界でも使われていますが、当社の軸で考えているリノベーションは、建物の改修や老朽化を直すハードの部分だけではなく、そもそもなぜハードをやるのか、住まうために何が必要かという、ソフトの部分から入っていく形です。ソフトとハードを融合させた不動産再生ですね。
一般的に言われているリフォームとの違いは、1箇所2箇所、例えばお風呂やエントランスの箇所ごとの修繕ではなく、躯体まできちんと調査した上で建物そのものの価値を数値的に判断し継続的に使える建物として再利用していくというような、ストックの価値を見出す事をリノベーションと呼んでいます。
@ リノベーションという言葉自体はいつ頃から使われ始めたのですか?
鈴木氏: 英語では“Renovation”という綴りになるのですが、業界的には3年位前から当社が最初に社宅をリノベ-ションして分譲した頃から使われ始めました。それまでは“リフォーム”、“リニューアル”という言葉しか無く、一部では“リモデル”とも言われていました。マンションを買い取った業者が表層だけ換えて、中古とは違う形で出すものをリニューアル・マンションという謳い文句で売り出していました。
そういった時代背景の中で、当社はハード面、ソフト面共に長くお使い頂けるという観点も含め、更に新しい価値のオール電化を加え、表層換えだけではなく、暮らし向きまで提案したいと考えました。そこでリフォームから進んだ言葉としてリノベーションを使い始めました。コンバージョンという言葉もありますが、それは用途が変わると言う意味ですから、我々はリノベーションという言葉に、良くなるという意味でLOHASを加えていってリノベーションという事業だと考えております。
@ なるほど。では、新築ではなく敢えてリノベーションをする意味は何でしょうか?
鈴木氏: まずは廃棄物が出ません。試算ですが、壊して、廃材を出して、新しいものを作る新築工事と比べてCO2を1/60に削減できます。古いものの中にも良いものが必ずありまして、コンクリートは20年経っていても使えます。
実は、コンクリートは60年必ず保つべきなんですよ。クラック(亀裂)などがあるかも知れないですが、補修すれば使う事ができる。配管関係もきちんと点検した上で、使えるものは使う。交換するものは交換する。全部換えるんじゃなくて、ここだけ換えれば使えるじゃないかというものもあります。使えるものは清掃して綺麗にして、良いものは残すという発想です。
ただし、例えば60平米で3DKの間取りは現在は流行りませんから、1DK、2DK、もしくは1Rにする。あるいはもっと使いやすい暮し向きのご提案をするというように、デザイン的には部屋の中は変えてしまいます。また、古い社宅などはオートロックでもないですし、セキュリティも悪いですよね。でも設備は付加できますから、昔のコンクリートの躯体は残して新しい設備を入れられます。
また、壊して建てると、近隣の人々にとって日当たりや通風が変わったりするといった環境の変化をもたらします。リノベーションであれば同じ配置、少しの増築で建物が生まれ変わります。事業的にも早い期間、最短で6ヶ月で新しいお客様を迎えることが出来ますので、有利であると言えます。工期が短く事業の完結が早い、事業のリスクが少ない、近隣負担も少ないと。
お客様から見たリノベーションのメリットは、事業コストが安く新築で狙う家賃から少し安い金額で提供しつつも、新築に負けないデザイン性を達成できる事ではないかと考えています。以前手掛けた物件でも、スケルトンにしてペンキを塗っただけというのが、実は新しさを生んでいます。天井を外してそのまま見せる、壁の一面だけ色を変えてみるといった事がお客様にとって新鮮だったりするんです。こういった事が我々の付加価値ですね。勿論、そこにオール電化も加わります。
@ 過去に手掛けられた面白いリノベーション物件の事例を教えて頂けますか?
鈴木氏: 辻堂の海岸近くの物件でサーフボード置き場がある物件ですが、大手企業さんからお話がありまして、そのエリアとしては間取りの広い社宅が半分くらい空いていたので決算対策で売却したいとの事で、弊社で購入後、入居者が居ながらリノベーションしました。
住む方が居ながらリノベーションというのが事業としては面白かったです。リノベーションは大改修が入るため、入居者がいるとやりにくいんですね。50戸のうち30戸は入居者が居ますので、お客様に注意を払いながら工事をしなくてはならない。
また、オール電化にするためにフロア毎にガスを止める際に、ガスとオール電化が隣同士の場合は、隣の方にプロパンガスを設置させて頂いたり、個別に対応もさせて頂き、我々も数多くの勉強をさせて頂きながらやり遂げました。工事としては難易度が高かったですね。このパターンは企業さんにとっても不動産の流動化という意味で面白い案件だと思います。
デザイン的にも湘南のライフスタイルを提案する事が出来ました。屋上から花火が見る事ができたり、テラスでビールを飲んだりと、そのエリアに沿った特徴付けができたマンションにリノベーションできました。地元を愛している人が多いエリアで、近隣の方にもリノベーションに共感して住んで頂く事のできた物件です。
@ それでは、リビタさんがシェア住居事業へ参入された狙いを教えて下さい。
鈴木氏: 社宅はリノベーションして分譲できますが、規制等の問題もあり、企業の寮はリノベーションしても老人ホームというようなパターンが多かったんです。あとは企業から企業へ企業名が変わるだけの転用しか活用方法が無かった。そこで、我々は社会人も居て、外国人も居る、学生さんも居て、皆さんでコミュニケーションのとれるスペースをテーマにやってみようという事になりました。
実はある案件で敷地内に社宅と寮がありまして、社宅は満杯だけど寮はガラガラです、何とかしてくれないかというニーズがありました。そこで新しい運用方法として、個人で新しいコンセプトで皆さん集まりませんか、という提案になったのです。
この場合、我々はオール電化が非常に相性がいいと考えていまして、シャワーブースにはエコキュートを入れれば節水に役立ちますし、光熱費を削減できるようにIHを入れる事もできます。皆さん賄いも必要のない時代ですから、敢えて自分で料理を作るような空間を取り入れ、IHで皆さん料理を作ってみませんかという事でIH体験を促せると考えました。東京電力で推進している“Switch”キャンペーンとも相性がいいなと考えました。
元々リビタの母体の半分は都市デザインシステムですから、そういうコミュニケーションをツールとしたり、ソフトにしたりが得意な素性はベースとしてありました。入居後1週間目にWelcomeパーティーを行うというような運営は、都市デザインシステムが得意なツールと言うか、築き上げてきたものではあります。
@ それでは、運営を始めてみてから気付いた事や、意外だったことはありますか?
鈴木氏: 実は僕は当初、男女一緒に和気藹々というのはどうなのかな、と言う懸念はありました。本当にそういったニーズがあるのかなと。トイレは上下階で男女分けてますけど、プライバシーの面で女性の方が嫌がるんじゃないかなと。
でも、実際は女性の方が多いでしょ?女性はそんなに気にしないって事は無いんでしょうけど、逆にいい緊張感で接する事が出来ているんじゃないかと。男子寮だとステテコ一丁でっていうイメージがあるかも知れませんが、男性も良い緊張感を持っていると思いますね。
井上氏: 意外に馴染むスタイルだな、と思いましたね。帰国子女が多いと感じましたし、住まいに関してポリシーをもっている方が多いとも思いました。ワンルームマンションのようにワンパターン化した日本の住み方に疑問を持っていて、こういう住まい方においても、ただ集まって住むだけではなく、経験が共有できるところで面白さを感じているようです。
@ 中古物件をシェア住居にリノベーションする上で難しい所、工夫のし甲斐があったところがあれば教えて下さい。
井上氏: 工事費も限られている中でしっかりとデザインも変えたいと考えていましたので、目線を意識して物件を作っています。例えば壁の色を一面変えるというのも、目線をそちらに持っていけば他の部分が、ある意味目立たなくなるという狙いがあります。
居室にしても、目線を外すことで狭く感じないという事も気にしてデザインしています。元々は白い壁を考えていたのですが、それではつまらないので、結果としていろんな色を試すことが出来ました。実は反対意見もあったのですが(笑)。
@ 一般の賃貸物件ではやりづらい冒険ですよね。
井上氏: そうですね。好きな色を選べるのは最初の方だけですけど(笑)
@ 回転の時には苦労しそうですよね。男性の方を案内するのに、今ピンクしか空いてないんですとか(笑)。色によって人気が違ったりといった事はありましたか?
井上氏: 女性の方でピンクじゃないと嫌だという方が居ましたね。緑も人気でした。それから、物件全体の中でも特にラウンジに力を入れて作っているんです。中古家具を厳選して入れているのすが、新品の家具よりも入ってすぐ落ち着いた感じがありまして、リノベーションと中古の家具は物凄く相性がいいと思いましたね。色んな家具屋さんに足を運びました。
@ シェア住居のリノベーションは面白いですか?
井上氏: 面白いです。冒険できるというのが一番の理由ですね。通常の分譲マンションでは出来ない事が賃貸だったら出来るという事と、更にこういったシェアの形態では、こういう形を受入れてくれるお客様だから、というやり易さがあります。分譲の方とは全く違った入居者を想像して作っているので。
鈴木氏: 実は当初、単身の若い人達が本当にコミュニケーションを求めているのかな、という懸念があったのですが、皆さんワンルームに住んでいながら、やはりどこかで見ず知らずの人であってもコミュニケーションを取りに行こうと思っている方が物凄く多いんだなと僕は思いましたね。
もし、我々がやっていなかったら建物も壊されていただろうと思います。土地が高騰押していましたから、分譲マンションや戸建になっていたのではないでしょうか。建物の有効利用の点でも成功していると思います。
@ 読売ランドの物件でグッドデザイン賞を受賞されていますが、どのあたりが評価されたと考えていますか?
石川氏: 今回のグッドデザイン賞は建築デザインではなく、新領域デザイン部門と言う新しいカテゴリーでの受賞となっています。建築的にデザインを評価するのが主流ですが、ハードを通して何を実現したのかが新領域デザイン部門の評価軸となっています。
今回のシェアプレイスのプロジェクトは、年齢も国籍も文化も性別も違うバラバラな個々の人物が集まって住まうハードを提供し、そこから生まれるコミュニケーションを提供しようというコンセプトの企画です。ただ単にご飯を食べて、寝て、家を出てと言ったハードではなくて、コミュニケーションというソフトを評価頂いたのではないかと思います。
そして、それを実現するための装置として共用部やフィットネスルームを提供し、コミュニケーションを求める人々に訴求できた事が受賞の理由でしょうか。物件ではなく、概念が受賞したと考えています。同じ部門で社会貢献活動をされている企業さんの受賞もありましたので、目に見えないところの評価を頂いた受賞でした。
@ リビタさんが考える今後の市場全体の展望と、その中でのリビタさんのビジョンを教えて下さい。
鈴木氏: 賃貸物件のゲストハウスやワンルームは単身者向けの結婚するまでの間の仮住まいというおつもりで皆さん入ってこられる事を我々はポイントとしておりますが、今までの選択肢に加え、新しい道、ジャンルが出来たのではないかと思っています。
それにプラスして、これからは何か学べるとか、一緒の趣味を持って勉強しあうといった教育の環境がコミュニケーションと言うキーワードで付加価値にできたら面白いですし、新しい展開が見えるかなと思っております。家賃をそれだけ払ってもいいんだと思える物件作りに、コスト削減、オール電化の推進、節水、エコというところで貢献できるのがキーになると考えております。
井上氏: 今後もこのような住居を作って行きたいと考えていますが、今までを越えるものを作らなければならないですよね。今後は教育的な観点をもったり、ビジネスが発展するような空間を提供できたらいいな、と考えています。
石川氏: まさかこういったリノベーションが実現するとは考えていませんでした。こんな暮らし、住宅が欲しかったというような事を気付かせるのが我々の仕事ですので、今後も新しい暮らし、カテゴリーを提案していきたいと思っています。